“好き”を形にした空間は、気持ちまで整えてくれる
「毎日帰るのが楽しみになりました」
Eさんがそう話してくれたとき、空間が与える影響の大きさをあらためて感じました。
都内在住・40代のEさんは、8畳のワンルームで一人暮らしをされている女性。

当初は「とくに不満はないけれど、どこか物足りない」と感じる空間で過ごしていたそうです。
物は多くないけれど、殺風景で落ち着かない。
そんな感覚にモヤモヤしながら、ずっと「海外ホテルのような、くつろげる空間にできたら」と思い、ご依頼をいただきました。

インテリアを整えるにあたって大切にしたのは、“好き”という感覚をきちんと拾っていくこと。
Eさんが日頃から保存していた海外インテリアの画像や、好きな質感・色味を丁寧に言語化しながら、それを「実際の部屋」に落とし込んでいきました。
その結果完成したのは、照明の陰影がやさしく広がり、ベージュを基調に整えられた、あたたかみのある洗練空間。
お気に入りのアートや、自然素材のラグが加わることで、まさに「海外風」かつ「自分らしい」と感じられる空間へと変わりました。
そして何より印象的だったのは、Eさん自身の言葉。

以前はただの“部屋”だったのが、今は“自分の居場所”になった感覚があります。
空間が変わることで、暮らしも気持ちも整っていく。
そんな実感を、今回のプロセスを通して私自身も深く共有させていただきました。
理想は「海外ホテルみたいな、くつろげる部屋」
Eさんが抱えていたお悩みとは?
Eさんが最初に話してくれたのは、



物はそんなに多くないのに、なんだか落ち着かないんです
というひと言でした。
家具の量も配置も大きく間違っているわけではなく、片付いている。
けれどどこか“仮住まいのような印象”で、心が休まらない。
そんな感覚を抱えていたそうです。
「おしゃれにしたい気持ちはあるけれど、センスに自信がなくて……」
「画像はたくさん保存してるけど、自分の部屋に合うかがわからない」
という言葉も印象的でした。
居心地の良さを求めながらも、「何を変えればいいのかがわからない」——。
Eさんのように、暮らしの中で“なんとなく不満”を抱えている方は、実はとても多いのです。
「ホテルみたいな部屋にしたい」というご相談から始まった
そんなEさんが目指していたのは、
“海外のホテルのように、すっきりと整っていて、気持ちが切り替わる空間”。
お休みの日に泊まった海外のブティックホテルの空間がとても心地よく、
「暮らしの延長ではなく、“特別な時間”を感じられる場所を自宅でも持ちたい」
という思いがあったそうです。
ただ、実際の住まいは8畳ワンルーム。
収納も限られ、生活感が出やすい間取りのなかで、どう“非日常感”を演出するかがポイントでした。
このご要望をもとに、Eさんの“好き”の方向性を一緒に深掘りしながら、
ホテルライクな雰囲気と、日々の暮らしやすさが両立する空間を目指すことになりました。
海外風インテリアに近づけるために行った5つの工夫
Eさんのお部屋を「海外風」に整えるにあたり、私が意識したのは、“スタイルを真似する”ことではなく、“雰囲気を言語化して翻訳する”という視点です。
多くの方が「海外っぽくしたい」と口にしますが、それが指すイメージは人によって異なります。
Eさんの場合は、「落ち着いていて、抜け感があって、ホテルのように気分が切り替わる空間」でした。
そのイメージに近づけるために取り入れた、5つの具体的な工夫をご紹介します。
工夫① 間接照明を増やして、光の質を変える
海外の住宅では、天井のシーリングライトを主照明とする日本の住宅とは異なり、「複数の光源を点在させて空間に陰影をつくる」ことが一般的です。
たとえば、スウェーデンの照明ブランド 《MENU》 や 《&Tradition》 のコレクションでも、天井以外の高さからの光が重要視されており、
英国『ELLE DECOR UK』でも「空間の質は照明の“配置”と“明るさのレイヤー”によって決まる」と解説されています(出典:ELLE DECOR UK「Lighting design tips from top interior designers」)。
Eさんのお部屋でも、IKEAの「FADO」テーブルランプや、無印良品のアームライトを取り入れ、目線の高さ・床に近い位置・作業スペースと、異なる高さに光を配置。
これにより、空間にリズムと落ち着きが生まれ、まるでホテルのような“包まれる明るさ”が実現しました。
工夫② 色数を絞り、ベージュ×グレーで統一感を
海外インテリアの洗練された印象は、「色の選び方」よりも「色数の絞り方」によるものが大きいとも言われています。
『IKEAホームカタログ(EU版)』や『AD(Architectural Digest)』などでも、ベースカラー2〜3色で空間を整える手法が多く用いられています。
Eさんの空間では、壁・家具・ファブリックの色数を「ベージュ・グレー・ホワイト」の3色に抑え、さらに木部の色を揃えることで統一感を意識。
アクセントカラーは最小限に抑えたことで、視覚的なノイズが少なく、自然と心が落ち着く空間になりました。
工夫③ アートやオブジェで“抜け感”とアクセントを
海外インテリアでは、“生活感を隠す”のではなく、“飾ることで整える”文化があります。
特に「壁面」に注目すると、日本と海外の暮らし方の違いが顕著です。
Eさんのお部屋では、無機質になりがちな壁面にキャンバスアートポスターを複数点取り入れ、奥行きを演出。
《HAY》や《The Poster Club》など、北欧ブランドの実例も参考に、モチーフは抽象的で落ち着いた色調のものを選びました。
また、テーブルの上やサイドチェストに配したセラミックのオブジェが“余白”を美しく演出し、全体の雰囲気にアクセントを与えています。
工夫④ 自然素材のラグ・ファブリックで柔らかさを
「ホテルのような洗練さ」だけでなく、「くつろげる空間」を実現するには、視覚と触覚の“温かみ”が必要です。
そのため、Eさんの空間には、コットン・リネン・ウールなどの天然素材を中心にファブリックを選びました。
フランスのインテリア誌『Côté Maison』によると、心地よさとリラックス感を高めるには「空間に温度感を与える“繊維の質感”」が重要だとされています(出典:Côté Maison「Créer une ambiance chaleureuse avec des matières naturelles」)。
その考え方を参考に、ジュート混のラグ、リネンクッションカバー、フリンジ付きのブランケットなどを重ね、視覚的にも感触的にもリラックスできるレイヤーを作りました。
工夫⑤ “生活動線”に合った家具配置でストレスをなくす
海外風インテリアに仕上げるためには、「映え」だけを優先して家具を配置するのではなく、「日々の動線」を整えることが前提になります。
Eさんの場合、在宅ワークも多く、窓際にワークスペースを設置。
視線が外に抜ける配置にしたことで、作業効率だけでなく気分転換のしやすさも向上しました。
ソファは壁にベタ付けせず、空気の流れが通るようにゆるく中央寄せに。
空間全体が呼吸するように“抜け”を持たせることで、居心地の良さが格段に変わりました。
これは米国のインテリア専門誌『Domino』でも紹介されている「心理的余白のための配置テクニック」を参考にした方法です。(出典:Domino Magazine「The Secret to Making Any Room Feel Bigger (Without Decluttering)」)
Eさんのお部屋で使用したアイテム&ショップ紹介
Eさんの空間づくりでは、あくまで「自分にとっての心地よさ」がベース。
ただ“海外風に見える”アイテムを選ぶのではなく、素材・色味・サイズ感にこだわり、統一感のある空間に自然と馴染むプロダクトを中心に選定しました。
以下は、実際に使用したアイテムとその選定理由です。
📌 照明|IKEA「FADO テーブルランプ」


- ガラスの球体が放つやわらかい光が特徴で、空間に温かみのある陰影をプラス。
- ベッドサイドに置くことで、夜のリラックスタイムがより穏やかに。
- IKEA 「FADO」
📌 ラグ|unico「LAPSI(ラプシ) ラグ 140×200」


- 毛足が短く、ベージュ〜アイボリーのグラデーションが空間のトーンを整えてくれる1枚。
- 天然素材(コットン・ポリエステル混)で足ざわりも良く、Eさんのお気に入りに。
- unico ラグ
📌 クッション|H&M HOME「リネンクッションカバー」


- ベージュ系とスモーキーグレーの2色を使用し、ソファ周りに自然なレイヤー感を演出。
- 価格も手頃で、季節ごとの模様替えにも最適。
- H&M HOME クッションカバー一覧
📌 アートポスター|The Poster Club「Growing Room」 by Anna Mörner


- 北欧のアーティストによる抽象画で、主張しすぎず空間に“余白”を与える存在。
- 白壁に映えるくすみカラーのバランスが絶妙。
- The Poster Club 商品ページ(英語)
📌 チェア|journal standard Furniture「Sunflower Rattan/サンフラワーラタン」
- ラタンとペーパーコードの組み合わせが、海外のリビングのような抜け感を演出。
- 実用性とデザイン性のバランスが◎。
- JOURNAL STANDARD FURNITURE
📌 キャンドル・香り|Francfranc「ティー フレグランスキャンドル(ミルクティー)」


- ホテルライクな空気感を仕上げる“香り”の演出に。
- パッケージもシンプルで、置いてあるだけで絵になるデザイン。
- Francfranc 商品ページ
空間に海外らしさを出すには、「何を置くか」だけでなく「どんな風に見えるか(素材・配置・色)」が大切です。
Eさんのお部屋では、価格帯やブランドをミックスしながらも、トーンと質感を統一することで“ちぐはぐ感”を防ぎ、洗練された印象に仕上げました。
Eさんに聞いてみました|インタビューコーナー
今回、実際にコーディネートをご依頼くださったEさんに、インテリアが完成したあとのリアルな感想を伺いました。



部屋が変わってから、一番うれしかった変化は?



帰宅したときの気持ちが本当に変わりました。
部屋に入った瞬間、ふっと肩の力が抜けるような感じがあって、家が“居場所”になったのを実感しています。
気づいたら、外出より家で過ごす時間が楽しみになってました。



特に気に入っているアイテムやエリアは?



ベッド横に置いた丸い照明(IKEAのFADO)がすごく好きです。
夜、このライトだけで過ごす時間が本当に心地よくて。
あと、アートを飾った壁まわりは、部屋の中でも一番“私らしい”空間になった気がします。



コーディネートで意外だったポイントはありましたか?



自分では絶対に選ばなかったような色味のラグを提案してもらったことですね。
最初は「明るすぎるかも」と思ったけど、実際に敷いてみたら空間がパッと明るくなって。
プロの目線ってすごいな…と実感しました。



実際に依頼してみて感じたことは?



一人で悩んでいたときよりも、考えるのが楽しくなりました。
好きなテイストを言葉にする手助けをしてもらえて、自分の「好き」がはっきりした感じがします。
“ちゃんと相談してよかった”と心から思いました。
「自分らしさ」がある海外風インテリアは、暮らしを変える
海外風インテリアというと、「広い部屋じゃないと無理そう」「アイテムにお金がかかりそう」そんなイメージを持たれがちです。
でも今回Eさんが体験したように、それは“遠い誰かのもの”ではなく、自分らしい暮らしを見つけるためのヒントにもなり得ます。ベージュとグレーを基調にした落ち着いた色味、自然素材のファブリック、やわらかな照明、余白のあるアート。
どれも派手な演出ではありませんが、Eさんにとっては「自分の“好き”が詰まった空間」になりました。
そしてその空間が、気持ちや行動を少しずつ整えてくれる日々のベースとなっています。
ポイントは、「どんな部屋にしたいか」よりも、「どんな時間を過ごしたいか」「どんな気持ちでいたいか」から考えること。
空間を整えることは、自分自身を整えることにつながります。
そしてその第一歩は、完璧なインテリアを目指すことではなく、「自分が“好き”と思えるもの」を大切にすることかもしれません。
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